…俺はどこで間違えてしまったのだろう。
どうしてこんなところにいるんだ?
この炎天下に、何を好き好んで…

「佐伯君、こっちです!」
「あ、はい!」

…何を好き好んで、男6人、しかも内1人は先生っていう異常なメンバーで 遊園地なんか来なきゃならないんだ!

「佐伯君、遅刻だな」
「待ちくたびれたで〜、瑛クン」
「…悪い。
 先生、お待たせしてすみません」
「いえいえ、無理に誘ったのは先生ですから。
 来てくれてありがとう、佐伯君」

…毒気抜かれる…
なんか苦手だ、若王子先生…
嫌いじゃないけどな。

「志波君、氷上君、針谷君、ウェザーフィールド君もありがとう。
 今日はエスコート、よろしくね」

エスコート。
そう、今日は若王子先生が「遊園地に行ったことが無い」ということで、
またまた氷上が張り切って先生に遊園地を案内する計画を立てたのだ。
折角だからナイトパレードも、なんて、いらん気をまわした所為で暑いし人は多いし…
ホント、俺、なんでオッケーしたんだろ。

「じゃあまずは」
「ジェットコースター!」
「なっ…!」
「あぁ、ジェットコースターだな」
「ジェットコースターだ」
「くっ…!ウェザーフィールド君はそれでいいのか?!」
「う〜ん、みんなが乗る言うなら構へんかな。
 それに、今日は若ちゃんセンセーの為に来てるんやし」
「クリス、正論」
「いいこと言うな!」

…氷上、泣きそうだな。
ま、ジェットコースターは基本だし、今乗らなくてもいつか乗る。
…そう、あそこにだって行く筈だ…
苦手な場所に行きたくないのはお前だけじゃないんだぞ、氷上。
…さて。
ジェットコースターといえば。

「やっぱり一番前だよな。
 先生、前に乗りましょう」
「やや、スリルがありそうですね」
「僕は志波君の隣がいいな…」
「は?」
「いや、何か安心感がありそうで…」
「…誰と乗ろうが変わらない気がするが…まぁいいか」
「じゃ、クリスは俺とでいいか?」
「うん!ハリークンと乗る」
「クンはつけるな!」

6人でぞろぞろと列に並びに行く。
順番はすぐに回ってきて、
俺と先生、針谷とクリス、志波と氷上の順に乗り込んだ。

「ドキドキします」
「気持ち良いですよ。
 特にこんな暑い日は」

落ちながら風を切るのがたまらないんだよな。
がたん、と音がして、ジェットコースターが動きだした。
ちら、と横目で先生を見てみる。
…うん、これからどうなるかわかってない顔だ。
どんな反応するんだろう。
そんなこと考えている間に、俺たちはレールのてっぺんまで昇っていた…




「目が回りました…へろへろです」

先生がベンチに座って苦笑いをする。
結局先生は、落ちる瞬間に「わっ」と声を出したっきり、平然としていた。
…見た目以上にタフだよな。
目が回ったって、俺たちに気を遣ってるだけじゃないか?

「佐伯君」
「え。…はい?」
「君の言った通りだ。
 風が気持ち良かった」
「楽しんでもらえてよかったです。
 でも、大丈夫ですか?」
「はい。回転にびっくりしただけですから」

…あ、そういえば。

「…氷上は?」
「なんとか生きてる」

志波が答えた。
…ハハ、いっぱいいっぱいみたいだな。

「んじゃよー、次は休憩も兼ねて観覧車行くか」
「!!」

おー、志波、焦ってるな。

「観覧車?
 先生、乗ってみたいと思ってたんです。
 眺めがよさそうですね」

眺めがいい、って言葉に過剰反応する志波。
…しかし、ここまで苦手がしっかりバラけてると面倒だよな…
まとまってたらそこだけ避けるのに。

「6人じゃ乗れへんよなぁ。
 また2人ずつにわかれるー?」
「男2人でこんなん乗ってどうするんだよ。
 3人ずつでいいだろ」

うん、針谷の言うとおりだ。
で、どう分かれるか。だな。

「俺は…クリスと針谷以外で」
「どういう意味だよ志波!」
「志波クンひどい〜」
「…はしゃいで揺らしそうな気がする」
「あぁ…」

納得。

「じゃあお前、先生と乗れよ」
「え」
「うん、志波君、よろしくね」
「………はい」

と、いうことは、あとは…

「氷上、ゆっくりしたいだろ?
 志波と先生のほう乗れ」
「あぁ、ありがとう、佐伯君」
「…なぁクリス、俺たちすげーひどい扱いされてね?」
「みんなボクらのこと嫌いなんやろか…」
「性格を考えろ。
 それに、嫌われてるわけない。
 ほら、行くぞ」
「…、佐伯…」
「瑛クンやさしい〜」

…うるさいな。





「わ〜!瑛クン見て見て〜!
 海がキラキラ光ってる〜!」
「お、ホントだすごい。
 こういう海も悪くないな」
「ていうか、見えたんだなぁ、ここから、海」

ゴンドラが昇っていくごとにどんどん景色が広がっていく。
へぇ、うん、はしゃぎたくもなるな、これ。

「な、佐伯、クリス。隣のゴンドラ…」
「え?」

景色を見ろ、景色を。
そう言いかけて、やめた。
俺と針谷とクリス。
片側に寄ってゴンドラが傾くのも気にせずに隣のゴンドラを覗く。

「…会話、あるのかな」
「さぁ」

何やら熱心にゴンドラの外を見下ろす若王子先生、
まだ気分が悪いのか俯きがちの氷上、
志波は…言わずもがな。

「若王子、気遣ってるぽくね?」
「そうかもな…」
「折角の観覧車やのに、なんや空気重いな〜」

…向こう、静組にし過ぎたか?
今日は先生を楽しませなきゃならないのに失敗したな…
と、先生がこっちに気付いてにっこりと手を振ってきた。
俺たちも手を振り返して、それから手振りで志波たちの事を示してみた。
先生は俺の言いたいことわかってくれたみたいで、
苦笑いしながら志波の頭を撫でた。
はは。よっぽど参ってるな、あいつ。





「すみません、先生の為にみんなに無理させちゃってるみたいで」
「全然!そんなことないです。
 ちょっと苦手なアトラクションがあるだけで遊園地自体はみんな好きですから」

俺が言うと、みんな頷く。
先生は笑って。

「ありがとう。志波君には悪いけど、
 先生、観覧車気に入っちゃったみたいです」
「それはよかった。
 ひとつでも気に入った場所ができたのなら僕も企画した甲斐があります」

お、氷上完全復活か。

「ところで…先生、お腹が空きました」
「あぁ、そういやもう昼飯の時間だな」
「うん、ボクも腹ペコや〜」
「どこかへ食べに…」
「…………………あの、さ」

全員が一斉にこっちを見た。
うわ。言いにく。

「その…じい、いや、マスターがどうしてもってきかなくて」

バッグを持ち上げて示して見せる。

「…弁当」
「え〜っ!瑛クンすごい!」
「気が利くなぁ佐伯!」
「君って人は!」

次々と誉め言葉を浴びせられて…くそ、照れ臭いな。

「俺じゃない。
 マスターが用意してくれたんだよ。
 ガキの遠足じゃないんだからって言ったのに、」
「いえ、先生、とても嬉しいですよ」
「…いや、あの、」
「それに…佐伯君のことだ、
 君も、お弁当作りに一役買ってくれたんでしょう?
 いつも君は僕達をとても気遣ってくれてるし、
 何よりマスターさんひとりにお弁当作りをさせるはずがない」
「…先生」

この人は…一体どこまで…!
あぁもう本当、敵わない…

「…と、とにかく。
 足りるかはわからないけど、…あっちの広場で食べましょう」


弁当と一緒に用意したレジャーシートを広げる。
男6人、弁当を広げても窮屈じゃない大きさ。
…って言っても。

「志波、寝っ転がるな。狭い」
「眠気が…」
「はいはい、あとでな。今は食え」
「佐伯君佐伯君、先生、蓋開けてみてもいいかな」
「あ、はい、もちろん」

先生が楽しそうに蓋を持ち上げる。
中身は…まぁ、弁当定番メニュー、だな。
あとは珊瑚礁のメニューもいくつか。

「おぉ、マジ美味そう!」
「これ、センセーの誕生日の時に食べたサンドウィッチ?
 ボクこれ好きなんや〜」
「どれから箸をつけようか迷うな」
「卵焼き…」
「やや、猫さんの形をしたおにぎりがある」
「あぁそれ、猫に見えます?よかった」
「佐伯君が作ったんですか?」
「えぇ、まぁ」
「すごい。これ、頂いてもいい?」
「もちろん」

先生が猫にぎりにかじりつくと、他の奴らも一斉に何かしら食いだした。
ここまでいい食いっぷりを見せられると作った側としてはやっぱり嬉しい。

「これ、中身、ツナですね。
 あとは…」
「あぁ、はい。
 ちょっとした味付けもしてあります」
「すごくおいしい。
 本物の猫も喜びそうです」
「ははっ、ありがとうございます」
「卵焼き、甘くて美味い」
「さんきゅ」

おーおー、すげー勢いで無くなってく…って俺も食わなきゃ。
その前に茶、配って…

「佐伯君座ってください。お店じゃないんだから、君もゆっくりして」
「あ…はい、つい癖で」
「連れ回してる僕が言うのもなんですけど…
 今日は何も考えずに楽しんでください」
「お陰様で、楽しんでますよ」
「うん、そう見える。
 でもね、覚えておいて。
 肩の力を抜くことを忘れたら、決して君の為にならない」
「…先生…?」
「もっと、楽しもう?」
「…」

やっぱり、苦手だ………
…なんで、こんな。

「瑛ク〜ン、なくなってまうで〜」
「あ、あぁ!」
「やや、このままじゃ先生の取り分も減っちゃいます」
「へへ、早いもの勝ち!」
「ちょっとは遠慮しろ、針谷」
「お前が言うのかよ!」
「アハハハ!」

………ったく、お気楽な奴らだな。
…悪くは、ないけど。





しばらくレジャーシートでのんびりと過ごした。
志波は熟睡中、
クリスは志波にたかる鳥を観察中、
氷上は読書中、
針谷は身体が小刻みに揺れてる…音楽聴いてるんだな。
先生は遊園地のパンフを熱心に見ていた。

「ねぇ、佐伯君」
「はい?何か行きたいところありました?」
「ここ、すごく気になります」
「…え?」

先生の指が示す場所は…

「えぇと、ゴーカートですか」
「いえ、お化け屋敷です」
「……………………ついに、きた」
「え?」
「いえ、なんでも」

俺は息を吐いて立ち上がった。

「みんな、そろそろ次行くぞ」
「どこ行くん〜?」
「…あれ」
「あれ?」

氷上は聞き返してくるが、針谷は察したらしい。
顔面蒼白。

「マジかよ〜…」
「ほら、志波、起きろ」
「んぁ…」
「…先生、何かまずいこと言ったかな?」















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